[ゆるぷる都市伝説]
蒟蒻玉の妖怪「蒟蒻坊」
夏といえば、怪談の季節! 昨年は「こんにゃくと幽霊」のコネタをお届けしましたが、今年は、こんにゃくにまつわる妖怪のハナシを……。
こんにゃく玉とは、こんにゃくの原料となるこんにゃく芋のこと。ゴツゴツと厳つく、およそオイシイ食べ物になるとは思えない(?!)外見をしています。和歌山県には、そんなこんにゃく玉の妖怪がいるんだそうです。
妖怪の名は「蒟蒻坊」または「こんにゃく坊主」。正体は古いこんにゃく玉なのですが、僧侶などに化けて、寺や農家の戸を叩きます。そして旅の宿を求め、「風呂を貸してはくれないか?」と尋ねてくるのがお決まり。
「旅のお坊さま、お疲れでしょう。どうぞどうぞ……」。そう快諾すると、僧侶(蒟蒻坊)は「風呂に灰は入っていないだろうね?」と聞き返してくるではないですか。
怪訝に思いながらも風呂を貸すと、翌日もまた「風呂に灰は入っていないね?」と念を押してくるとか。
僧侶があまりに灰を気にするので、ある者がいたずら心で風呂に灰を入れておいたところ、いつまで経っても僧侶が風呂から出てくることはなかったと言います。
代わりに湯船には、大きなこんにゃく玉が1つ、ぷかりと浮かんでいたんですって……。そう、蒟蒻坊は灰に慌てて正体を現し、風呂で煮詰められてしまったのです。
さまざまな伝承があるようですが、大まかなあらすじはどれも同じ。妖怪・蒟蒻坊にとって鍵となるのは、「風呂」「灰」のようです。
土の中で育つこんにゃく芋は、泥まみれ。それゆえ、風呂に憧れたのかもしれませんね。
では、「灰」を恐れたのはナゼ? 答えは、昔のこんにゃく凝固剤が灰汁(あく)だから。
こんにゃく芋に含まれるグルコマンナンには、大量に水分を含む性質と、アルカリ性にすることで固まる性質があります。この2つの性質を利用し、凝固剤としてアルカリ性のものを加えて、ぷるぷるのこんにゃくを作るというワケ。
現在、凝固剤として使われているのは、アルカリ性の水酸化カルシウムなど。しかし昔む〜かしは、灰汁(灰に水を加えた上澄み)がアルカリ性であるため、それを利用していたんです。
こんにゃくの妖怪は、蒟蒻坊だけではありません。民俗学者の柳田國男氏によれば、こんにゃく玉が怪火となって飛び回ることもあると言います。
こんにゃく芋が奇怪な現象と結びつけられるのは、厳ついフォルムだけでなく、ほかの農作物とは異なる特性があるから……かもしれませんね。
こんにゃく芋は、前年にできた芋を種芋として育てると、次の収穫時には一回り大きな芋ができ……という感じで、年々少しずつ獲れる芋が大きくなっていくんです。
こんにゃくの原料にできる大きさまでには、3年以上が必要。より長い年月を経ると、写真のように不気味なほど巨大な芋へと成長していきます。
その上こんにゃく芋は、加工しなければ食べることができません。エグミが強く、ネズミさえも食べないほど。
何年もの間、暗い土の中でじぃ〜っと過ごしている芋。そして、口に含めば、舌を針で刺すような刺激がある芋。そりゃ〜不可思議なチカラも宿っているというもんです。
でもみなさん、ご安心ください。蒟蒻坊は風呂に入りたいだけで、とんでもない悪事を働いたり、コワ〜イ見た目でおどかすワケではないようですヨー。